基本的な
批判しないで伝えるスキル

批判的な言い方になってしまうのはどんなとき?
人は「相手に変わってほしい」と思う時に批判的な言い方をしてしまいがちです。また「〇〇したほうがいいのに」と相手を思う気持ちから批判まじりの伝え方をしてしまうこともあるでしょう。
しかし、どんな意図があったとしても、批判されたほうはネガティブな気持ちを抱きやすくなります。親子関係において批判的な言い方が多いと、次のような状況が起きるかもしれません。
- 子どもの選択や意思決定を邪魔してしまう
- 子どもの価値観を重視していない印象が子ども自身に伝わってしまう
- 親子の関係が悪化してしまう
- 一緒にいるとお互いにストレスを感じやすくなる
このように、批判的な言い方によりネガティブな影響が生まれる可能性があります。お子さんといつまでも良好な関係を築くために、批判的なメッセージは控えた上で、批判しない言い方に変えていくよう意識しましょう。具体的な方法は、次でご紹介します。
批判しないで伝える5つのスキル
批判しないで伝える方法として、次の5つのスキルをご紹介します。
- 1. 変えられない事実に気付く
- 2. 一番伝えたいメッセージは何か考える
- 3. 「私は」という主語で伝える
- 4. 今後の対応について質問する
- 5. 落ち着いてから話す
それぞれのスキルや具体的な声かけについて、お子さんが遅刻しそうな場面を例に見ていきましょう。
1.変えられない事実に気付く
まずは「自分に変えられないこともある」という事実を認識しましょう。
たとえば、お子さんが遅刻しそうな時「なんで寝坊したの?」「どうしてそんなにのんびりなの?」と思い、つい怒ってしまう場面もあるでしょう。しかし、どれだけ怒っても、お子さんの行動すべてをコントロールできる訳ではありません。怒られることで萎縮してしまい、逆にスムーズに動けなくなる可能性もあります。
大切なことはお子さんを批判する前に、「怒っても時間は巻き戻らない」「こどもの行動をコントロールできない」と割り切る意識を持つことです。変えられない事実に気付くと、自分ができること・自分に変えられることが明確になり、どう行動したらよいかが見えてきます。
2.一番伝えたいメッセージは何か考える
つぎに、お子さんに伝えたいメッセージは何かを考えましょう。「子どもに遅刻してほしくない」と考える時、なぜ遅刻してほしくないのか深掘りしてみると、以下のように子どもに伝えたいメッセージが見えてくるはずです。
- 私は時間を守りたい。子どもにも時間を守る人になってほしい
- 私は遅刻して先生を困らせたくない。遅刻することで迷惑がかかることをわかってほしい
「なぜ遅刻してほしくないのか」について考えることで、あなた自身の価値観に気付けます。こうしたプロセスにより、一方的な言い方を防げる可能性が高まります。
自分が伝えたいメッセージとともに、お子さんの立場や心情を想像してみるのもおすすめです。「焦りや自己嫌悪を感じているかも」と想像すると、共感でき、ストレートな言い方を避けられるでしょう。
3.「私は」という主語で伝える
お子さんに声をかける時は、主語を「私は」に変えて伝えましょう。あなた自身の考えがダイレクトに伝わりやすくなります。
- 私は〇〇したほうがいいと思うんだよね
- お父さん/お母さんは、できれば遅刻しないでほしいんだよね
批判的な言い方には「一般的には…」「常識的に…」などのニュアンスが含まれてしまうことがあります。一般論をもとに叱るのではなく、主語を「私」に変えた伝え方で、お子さんと向き合いましょう。
あなたの考えと一緒に、お子さんの立場に寄り添った伝え方ができるといいですね。
「遅刻って焦るよね」「焦って登校するのも大変だよね」「だからなるべく余裕を持って登校してほしいんだよね」などの伝え方ができれば、お子さんも受け入れやすいはずです。
4.今後の対応について質問する
お子さんに質問をなげかけ、自ら行動できるようにサポートしましょう。この時のポイントはお子さんの意思を丁寧に確認することです。「遅刻してほしくない」というあなたの希望は一旦置いて、お子さんがどう思っているのか聞いてみましょう。
- 学校に遅刻したくない?それとも遅刻してもいいかなと思う?
- 明日遅刻しないように出発したい?そこまで急ぐつもりはない?
このように遅刻についてどう考えているかを確認することが、批判しないために大切です。お子さんが「遅刻したくない」と答えた場合は、さらに次のように質問を重ねていきます。
【遅刻したくないと答えた場合】
- 明日遅刻しないためにどうしたらいいかな?
- 遅刻しないために何ができそう?
- 余裕をもって登校するために何から始める?
こうした質問によって、お子さんに「遅刻はあなたが考えるべき問題だよ」というメッセージを伝えられます。同時に「改善に向けて私も手伝うよ」という想いも伝えられるでしょう。お子さんに「改善しなきゃ」という気持ちが芽生えてきたら、必要に応じたサポートをします。なにを、どこまでサポートするかは、お子さんと話し合いながら決めましょう。
一方「遅刻しても別にいいかな」など、遅刻を気にしていない発言や素振りがみられる場合もあるかもしれません。お子さん本人が遅刻を問題視していない可能性があるため、次のようなやり取りを重ねます。
【そこまで遅刻を気にしていない場合】
- なるほど。そう考えているんだね。(共感)
- でも、お母さん/お父さんは遅刻が続いていて心配なんだよね。いつまでこの状況が続くのかな、と思っているよ。(「私は」という主語で自分の思いを再度伝える)
- 遅刻が成績に響くこともあるんだよ。高校生になると、遅刻ばかりしていたら進級できなくなることもあるんだよ。(遅刻によるデメリットを伝える)
- 今すぐは難しいかもしれないけれど遅刻しない方法は考えてみてほしいな。(子どもの立場にも配慮しつつ、親としての思いを伝える)
このように、共感や子どもの立場に配慮した伝え方を意識すると、お子さんを批判せずに済みます。遅刻によるデメリットも伝えられるため、「このままではマズイ」と気付くきっかけも生まれるでしょう。
なお、こうした働きかけをしても、お子さんの遅刻が直らない場合は、一旦引いてみるという選択もあります。親子であっても、子どもの行動を変えることはできないため、必要なことをちゃんと伝えた後は、見守ってもいいのです。
見守るだけの状況が歯がゆく感じたら「私ができることはした」「今後どうするかはこの子次第」「遅刻はこの子の課題」「この子にバトンを渡してもいい」と、自分に言ってあげましょう。
また、仕事や用事で家を空けるご家庭では、安全管理の点でお子さんと話し合いを持つ必要があります。「お父さん/お母さんは◯時までに家を出なくちゃいけない」「家に1人でいるのは心配だから、どうしたらいいか一緒に考えよう」と伝え、建設的に話し合います。いい案が思いつかない場合は、欲求を活かした関わりを提案してみるのもよいでしょう。
子どもの欲求を活かした関わり
・登校班で下級生のお世話をするために登校してみてはどうか?と促す(愛・所属の欲求、力の欲求が満たされる)
・少し早めに出発して、一緒に話しながら登校しない?と誘う(愛・所属の欲求が満たされる)
・なにかいいアイデアはある?と聞いてみる(楽しみの欲求が満たされる)
・ここまで出た案の中で、どれだったらできそう?と聞き、選ばせる(自由の欲求が満たされる)
このように、お子さんに寄り添い、お子さんの自己決定を支える関わりによって、欲求を満たすサポートができるでしょう。
話し合いがうまくいかず悩んだり、正解がわからず困ったりする場面もあるかもしれません。しかし、あなたが粘り強く関わることで、伝わるメッセージが必ずあるはずです。自分を責めそうになる時もあるかもしれませんが、そんな時こそ「私ができることはできている」と、自分に言い聞かせてあげてくださいね。
人は自ら決めて行動した方が実行できるという研究データもあり、親側が引いてあげる時も必要です。また「〇〇しなさい」と言わない方がお子さんの自由の欲求を満たせます。お子さんが成長する過程だと信じて見守りましょう。
5.落ち着いてから話す
ここまでさまざまな関わりかたをお伝えしましたが、お子さんにどうしてもイライラする時は、今すぐ無理に関わろうとしなくても大丈夫です。次の対処法を試し、落ち着いてから話すようにしましょう。
- その場で注意せず、淡々と対応し見送り、帰宅後に振り返る
- 「今じゃなくても教えることはできる」と考え、一旦引く
- 少し距離を置き、気持ちが落ち着いてから冷静に話す
感情があふれそうな時は「子どもが何をして、どう過ごすかは子どもが決める」と割り切ることも大切です。「子どもにも考えや価値観がある」と認めることで、お子さんの成長を促せるかもしれません。
勢いで怒りそうになった時は、その場から離れ、自分の思考を切り替えることに努めましょう。好きなことをしたり、大きく深呼吸をしたりすると、無理なく乗り越えていけるはずです。